よしま農園で野菜セットが始まった歴史

私が農業をはじめた当初、農業経営を確立する上で思い描いたのは、こだわりの無農薬野菜を沢山収穫し、大きな物流で販売していくことでした。その方針で、当初からトマト農家として栽培面積を増やしていきました。

最初の数年は年々収穫量も増え、取引先も増えていきました。しかし・・・・、その後の年から急にトマトの収穫量が激減しはじめ、当初の夢とは裏腹に、計画通りに進まないことに行き詰ってしまいました。

そんなあるときに一本の電話がありました。「よしま農園さんのトマトがとっても美味しいから、ほかの野菜も食べてみたいので、今とれる野菜を何でもいいからセットにして送って頂けませんか?家族で食べる分ですから、量は少なくても種類が多いと嬉しいなぁ」・・・・。

そのとき農園の販売用野菜はトマトだけだったのですが、お客様のご要望になんとかお応えしようと、自家用野菜の小さな畑から色々な野菜を収穫しセットにして宅配便で送りました。野菜セットの第一号便です。

そうしたところ、お客さんからとても喜んで頂けました。それまでは、お店への卸販売が中心だったため、直売で聞くことができるお客様からの直接の要望や感想をいただけたことは私にとってとても新鮮で、とても感激し、嬉しく、とても励みになりました。それから年々トマトの収穫量は減るばかりで、私の農業は、まるでどん底をさらに掘り進めているような感じでしたが、逆に多品目野菜の需要が高まってきたことから色々な野菜づくりにチャレンジし始めました。

私の農業形態も随分変わってきました。多品目野菜の栽培が順調に進んだかといえば、そうではなく、どれほど種を播いても全滅することや、芽吹いた野菜が十分に成長しないために収穫に至らないことなど、状況は様々ですが、そのような中でも収穫できる野菜が少しでもある様子を見ると、野菜たちは畑全体でお互いに助け合っているんだなぁ、という感じがしました(私も助けられている)。

「○○さんがキャベツが食べたいって言っていたなぁ。○○さんは夏にも葉物があったほうが良いっていってたけど、暑い時期は虫が多くて難しいけど、なんとかチャレンジして種を播いてみようか。○○さん、キュウリを絶賛して頂けたなぁ。また喜んで頂けると嬉しいから、もう少し面積を増やしてみようかなぁ・・・・・」などなど、お客様からいただくご要望にできるだけお応えしたく、喜んで頂きたいという思いで取り組んでいます。

また、農業規模が縮小したかといえば、そうではなく、毎年こころざしを高くもち、トマト農家として数千本のトマトの栽培にチャレンジを続けています。私が毎年、安心してチャレンジできるのは、取引先のお店や、業者の方々が「トマトが沢山とれたら、待ってるからいつでも声かけてね。楽しみにしているから」と、いつも見守って、心をかけて頂いているからです。有難うございます。 このように、私は皆様の支えのもとに農業をさせていただいています。皆様が野菜を食べていただくことは直接畑と結びついており、それは、同時に皆様と一緒になって畑を耕しているような感じです。畑は年々豊かになっています。しかしながら、あまりにも不安定で収穫予想がつかないため(例えば、○○が、いつ、どのくらい収穫できるか)、ご注文を頂いても必ずお届けできるというお約束ができないことで、大変にご迷惑をおかけすることが多いのですが、それでも待っていてくださり、御理解を頂き、よしま農園の野菜をお求め頂いておりますことに農園関係者一同(私、家族、畑、野菜たち)より、心より感謝申し上げます。

また今年も、急にしおれ枯れはじめたトマトたち

今年は6年ぶりにまとまった収穫量があるかもしれない! とても嬉しく、心高揚しました・・・・そう思っていた矢先の出来事です。7月下旬にトマト(1700本)の収穫が本格的にはじまったときのこと。3日間の曇天が続いた後の晴天の日・・・・。

ハッとするほどに、あっというまに半分ほどのトマトが一斉にしおれ枯れはじめました。

事態はそれ以上に進行し、どんどん枯れは拡大しつつありました。「あっ、今年もか!」。具体的には「褐色根腐れ」という病気で、水を与えれば根が腐るため枯れてしまい、逆に真夏の水不足のときに水を与えなくては枯れてしまという、どうすることもできない、手だてがないまま見守るしかない状況です。

しおれてゆくトマトたち。その姿を前にして久しぶりにトマトの姿をスケッチしてみたくなりました。7月から8月は農作業がとても忙しく、しばらく野菜の姿をスケッチする時間がとれていませんでした。

いや違う・・・。スケッチすると言っても、いつも数分程度の短時間の落書きだから時間がないというのはウソなはずです。スケッチには、まず心のゆとりが必要です。次にスケッチしたくなるようなものが見つからないと心が動きません。それには醜いものや汚いと思うようなものは書こうとは思わず、やはり美しいと感じるものが描く対象となるのではないかと思いますが・・・。

じーっとトマトを見つめていると、とても愛らしく、かわいいです。「トマトは何を思っているんだろう?」毎年、枯れる姿を前にすると、いつも問いかけています。スケッチという、ひとときのゆとりの時間にトマトを愛でていると、ふと私の心には、残念に思う気持ちや、期待要求(「もっと頑張れ!」という要求)する気持ちが薄らいでいきました。あきらめではなく、なにか不思議なほどに安らいでいる私と、トマトの時間でした。「トマトよ、ありがとう・・・・」。

それからも真夏の猛暑のなか、昼中はまるで瀕死の状態のトマトたちですが、夕暮れから早朝にかけては不思議なくらい生気を取り戻し、「ほらっ、まだ僕たち大丈夫だよ。ついている青い実は必ず赤くするからね」と言ってくれているかのように、ほほ笑んでくれている感じがします。そこにはトマトのなかにある根源的な力強い生命力を感じます。きっと赤く熟したトマトには、ギュっと詰まった生命力があるように思います。トマトを食べていただくことで、そのトマトたちのほほ笑みを感じて頂けたとしたら、私としてはとても嬉しいことです。・・・・そして8月18日まで、木に残ったトマトの青い実は小さいながらも赤く熟した後、8割以上のトマトが生育半ば完全に枯れていきました。普通では10月下旬まで生きるトマトですが、十分に力を果たしてくれました・・・・「ありがとう。よく実ってくれたね。来年、また会おうね。トマトさん」。これから野菜セットに入っているトマトは、わずかに残っているトマトです。

(2008.8)

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